香料化合物の名前について

化学物質の名前はIUPAC(国際純正応用化学連合)という組織によりIUPAC命名法が制定されています。この命名法は化合物の構造から名前をつける方法です。基本骨格となる構造に、どの位置にどんな置換基がついているかをみる方法です。例えば、下記の例では一番長い炭素鎖を基本骨格(ここでは赤線で示された炭素鎖)とし、置換基の名前と位置を示す方法です。下記化合物の場合、基本骨格は炭素鎖が10、置換基はメチル基ですから、その位置と数を含めてIUPAC名で表すと2,4,8-Trimethyldecaneとなります。

ところで、香料化合物は古くは植物から抽出されて使用されてきたという歴史と、その中に多く含まれるテルペン類化合物には抽出された植物などを由来とする名称が与えられていた歴史があります。IUPACの規則以前のことでもあり、その化合物名がよく浸透しているという事情があります。また、調香する場合その化合物の香調と同時にその物質の名前を覚える必要があり、徒に長い名前は嫌うことが考えられます。さらに、処方を書く上での不便さや間違いを犯す可能性などにより、香料業界では、IUPAC名よりも、通用名や商品名での化学物質名に馴染んでいるといえます。

香料化合物として頻繁に用いられるテルペン類化合物のIUPAC名は複雑になる傾向があるので慣用名を持つ香料化合物は慣用名で呼ばれることが多いのです。以下の例はテルペン類化合物のものです。

(慣用名)      (IUPAC名)

リモネン(Limonene)⇔  4-Isopropenyl-1-methylcyclohexene

リナロール(Linalool)⇔ 3,7-Dimethyl-1,6-octadien-3-ol

メントール(Menthol)⇔ 5-Methyl-2-isopropylcyclohexanol

また、以下のような例外的な事案もあります。

#IUPAC命名法では誤用だが社会通念上慣用名として認められている例

<イソプロパノール:isopropanol>(IUPAC名:Propan-2-ol)

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%BD%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%91%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%AB

<イソブタナール:isobutanal>(IUPAC名:2-Methylpropanal)

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/01/dl/s0116-4b.pdf

こういった事情がある中、先般、化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)が改正され少量新規化学物質の確認申出様式の変更がなされました。「化学物質の名称については、IUPAC名称の記載を求めていたところ、改正後はIUPAC名称でなくとも、略称名など化学物質が特定できる名称であれば受理する。」とされたのです。このことは、香料化合物を扱う者にとっては朗報となりました。例えば、先のIUPAC名称3,7-Dimethyl-1,6-octadien-3-ol(3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オール)は「リナロール」」と記載すれば良いということになります。

<テルペン類化合物>

香料化合物は一般有機化合物と同じように分類(脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素など)が行われますが、一方で「テルペン類」という一群をも含んでいます。「テルペン類」とはイソプレン(Isoprene、C5H8)ユニットを1単位として構成される天然物化合物群のことを指します。

モノテルペン(monoterpene):(C5H8)2・・・・・香料などが含まれる。先に記載したリモネン、リナロール、メントールなどがこれに含まれます。

セスキテルペン(sesquiterpene):(C5H8)3・・・芳香物質が多い。

ジテルペン(diterpene):(C5H8)4・・・・・・・強い薬効、毒性を示すものが数多く知られています。

セスタテルペン(sesterterpene):(C5H8)5・・・強い薬効、毒性を示すものが数多く知られています。

トリテルペン(triterpene):(C5H8)6・・・・・ステロイドなどのホルモンとして働く化合物群を含んでいます。

<IUPACに興味のある方に>

次のサイトをご覧ください。:http://www.iupac.org/

<もっと命名法について興味のある方に>

日本化学会が「書く人と読む人のための化合物名-情報検索に備えて-」という文章を掲載していますのでご一読ください。http://cicsj.chemistry.or.jp/14_5/hata.html

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