香料の化学

香料は有機化合物に入ります。高校の化学で有機化学を習うことになりますが、100いくつかある元素の中で、有機化学で取り扱われる元素はそんなに多くありません。主なところでは,C(炭素),H(水素),O(酸素),N(窒素),P(リン),S(イオウ),ハロゲン(フッ素(F)・塩素(Cl)・臭素(Br)・ヨウ素(I)など)などです。

ところで有機化合物の数は2000万種を超えているともいわれています。これは炭素の結合がいろいろと織り成すためです。その中で、香料化合物は分子量が約20から400程度のものですが、ニオイのある化学種は約40万種以上あるといわれています。さまざまな分子構造の違いがニオイというものを形作っています。ここではその不可思議な違いを以下の項目から見てみましょう。

置換基の違いによるニオイの違い

炭素が直列に6個並んだ直鎖化合物へキサンを例にとって見てみましょう。ここでは、便宜上末端の炭素に置換基があるものを比較します。

1)ヘキサン(炭化水素:炭素と水素のみで構成されている化合物)

  • 示性式:C6H14
  • 構造式:CH3CH2CH2CH2CH2CH3
  • 図式化すると、一般に下記のように表されます。水素は省略されます。
    端と角々(かどかど)が炭素を意味しています。

  • ニオイの表現:「弱い溶剤臭」「微かな特異臭」「灯油のようなニオイ」
    ホームページの記載から表現を集めてみました。
    「灯油のようなニオイ」が一番イメージを捉えやすいと思います。

2)ヘキサノール(アルコール:炭化水素に水酸基がついたもの)

  • 示性式:C6H13OH
  • 構造式:CH3CH2CH2CH2CH2CH2OH
  • ニオイの表現:「ややオイリーな葉的フルーティ香」「芝を刈ったばかりの時のニオイ」

3)ヘキサナール(アルデヒド:炭化水素にアルデヒド基がついたもの)

  • 示性式:C5H11CHO
  • 構造式:CH3CH2CH2CH2CH2CHO
  • ニオイの表現:「非常に力強いファッティ(油臭い)な草的グリーン香」「古米臭」「大豆の青臭さ」

4)ヘキサン酸(カルボン酸<又は有機酸>:炭化水素にカルボン酸基がついたもの)

  • 示性式:C5H11COOH
  • 構造式:CH3CH2CH2CH2CH2COOH
  • ニオイの表現:「重く刺すような古い油のようなニオイ」「ヤギくさいニオイ」「銀杏の実のニオイの1種」

このように同じ炭素数を持ちながら置換基の違いによってニオイの質や力強さが異なってきます。今度は、炭素の長さの違いによるニオイを見てみましょう。

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同じ(エチル)エステルでも酸部の炭素の長さによるニオイの違い

1)酢酸エチル(エチルアセテート)

  • 構造式:CH3COOC2H5
  • ニオイの表現:「快いエーテル・フルーティ・ブランディ様ニオイ」「果実臭」「芳香臭」

 

2)酪酸エチル(エチルブチレート)

  • 構造式:C3H7COOC2H5
  • ニオイの表現:「力強いバナナ・イチゴ・パイナップルを想起させるフルーティ香」

 

3)ヘキサン酸エチル(Ethyl hexanoate)、カプロン酸エチル(Ethyl caproate)

  • 構造式:C5H11COOC2H5
  • ニオイの表現:「ややフローラルなアップル、バナナ、パイナップルを想起させるフルーティー香」

 

4)オクタン酸エチル(Ethyl octanoate)、カプリル酸エチル

  • 構造式:C7H15COOC2H5
  • ニオイの表現:「発酵を想起させる甘いアプリコット・パイナップル様フルーティー香」

 

5)デカン酸エチル(Ethyl decanoate)

  • 構造式:C9H19COOC2H5
  • ニオイの表現:「オイリーなナッツ・ワイン粕的な甘いニオイ」

*炭素の数が増えるにつれて、ニオイの質が重くなっているように思いませんか。

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炭素の手が4本でもあなどれない構造の違いによるニオイの違い

A.二重結合によるニオイの違い

1)ヘキサノール(Hexanol、Hexyl Alcohol)【再掲】

  • 構造式:CH3CH2CH2CH2CH2CH2OH
  • ニオイの表現:「ややオイリーな葉的フルーティ香」「芝を刈ったばかりの時のニオイ」

 

2)トランス-2-ヘキセノール(trans-2-Hexenol)

  • 構造式:
  • ニオイの表現:「力強いフルーティーグリーン香」

 

3)トランス-3-ヘキセノール(trans-3-Hexenol) 『4)とは幾何異性体』

  • 構造式:
  • ニオイの表現:「非常に強い葉のようなグリーン香」

 

4)シス-3-ヘキセノール(cis-3-Hexenol)  『3)とは幾何異性体』

  • 構造式:
  • ニオイの表現:「力強い草的グリーン香、トランス-2よりフルーティーさは弱い。」

*構造式の絵やニオイの表現から汲み取ってもらうしかありませんが各々のニオイは違っているのです。どうです、違いを知る意味で香料会社の門を敲いてみますか。

B.立体異性体によるニオイの違い

1)幾何異性体:ジャスモンの例
(二重結合をもつ炭素の結合手は二本しか残りません。その二本の手の向きが同方向を向いている場合がシス体、反対方向を向いている場合がトランス体です。ここでは、別な例を見てみます。)

・シス-ジャスモン

  • 構造式:
  • ニオイの表現:「トランス体に比べニオイが強くジャスミン様香気」

 

 

 

 

・トランス-ジャスモン

  • 構造式:
  • ニオイの表現:「脂肪臭」

2)光学異性体<鏡像異性体>
(炭素には手が4本あります。4本の手に全部違ったものが結合した場合には鏡像関係が成立します。鏡の前に立つ貴方が右手を上げても鏡の世界の貴方は左手を上げています。このように重ね合わすことのできない関係をキラルといいます。キラルな一対の化合物をエナンチオマーといい、その場合の炭素を不斉炭素原子とよびます。)

二つの例をあげます。ひとつは、カルボンです。もうひとつはリナロールです。カルボンでは、イソプロピル基が結合している炭素原子が不斉炭素原子です。

・d-カルボン

  • 構造式:
  • ニオイの表現:「キャラウェイ様香気」

 

 

 

 

 

・l-カルボン

  • 構造式:
  • ニオイの表現:「スペアミント様香気」

 

 

 

 

 

・d-リナロール

  • 構造式:
  • ニオイの表現:「プチグレンに近い甘いラベンダー様香気」

 

・l-リナロール

  • 構造式:
  • ニオイの表現:「ウッディーなラベンダー様香気」

 

C.構造異性体によるニオイの違い

構造異性体というのは、分子式が同じでも構造式が異なるものをいいます。例えば、C4H10(ブタン)では、構造式が図のように2種類考えられます。どちらも4つの炭素原子と10個の水素原子からなっていることが理解できます。


炭素数が増えれば増えるほど構造異性体の数は増えます。コンピューターで計算したそうですが、C40H82(テトラコンタン)の構造異性体の数は、62兆4818億114万7341個あるそうです。

ニオイの違いの例:ブタノールを見てみる。

・1-ブタノール(1-Butanol、1-Butyl alcohol)
(平成18年9月12日指定添加物として公示されています)

  • 構造式:CH3CH2CH2CH2OH
  • ニオイの表現:「特有なニオイ」

 

・2-ブタノール(2-Butanol、2-Butyl alcohol)
(添加物として未認可です。2010年10月20日現在)

  • 構造式:CH3CH2CH(OH)CH3
  • ニオイの表現:「ぶどう酒に似たニオイ」

 

 

・イソブタノール(Isobutanol、Isobutyl alcohol)
(平成16年12月24日に指定添加物として公示されています)

  • 構造式:(CH3)2CH2OH
  • ニオイの表現:「刺激的な発酵したニオイ」

 

 

・ターシャリー-ブタノール(tert-Butanol、tert-Butyl alcohol)
(三つに枝分かれした炭素に水酸基がつながっている)
(添加物として未認可です。2010年10月20日現在)

  • 構造式:(CH3)3C(OH)
  • ニオイの表現:「樟脳のようなニオイ」

 

 

*いかがでしたか。有機化合物という炭素を骨格とした摩訶不思議な世界。分子構造に潜む万華鏡のようなニオイの世界。少しは、ニオイと化学に興味を持って頂けたでしょうか。本当は、画面からニオイを届けられたらこんなにやさしい話は無いのですが。

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香料とは